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「社会に開かれた教育課程」を分かりやすく解説!3つのポイントと実践例も紹介

2025年01月23日
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葉山ミノリ
2018年に通信制大学を卒業。
現在はWebライターとして、幼児教育・児童発達支援ジャンルを中心に執筆している。
ASD(自閉スペクトラム症)の長男との関わり方を学ぶため「児童発達支援士」の資格を取得し、発達心理学にも知見がある。
「子ども一人ひとりの個性や発達に合わせた教育の大切さ」を日々感じる立場から、従来の枠にとらわれない教育の多様性について発信していきたい。
保有資格は、小・中・高等学校教諭一種免許状(国語)・児童発達支援士・発達障害コミュニケーションサポーター・FP3級

「社会に開かれた教育課程」は、令和2年度から始まった新学習指導要領の基本理念です。この考え方をもとに、子どもたちが学校の枠を超えて社会と関わり、社会を生き抜く力やよりよい社会を実現するための能力を育んでいくことを目指します。

この記事では、社会に開かれた教育課程について、文部科学省の資料をもとに分かりやすく解説します。

実践例も紹介するので、これからの社会をつくっていく子どもたちへの教育や、地域社会と学校の連携について関心がある方はぜひお読みください。

 

社会に開かれた教育課程とは

ここではまず、「社会に開かれた教育課程」と同義である「新学習指導要領の基本理念」について解説します。その後、社会に開かれた教育課程の3つのポイントと、必要性について考えていきましょう。

 

新学習指導要領の基本理念とは

新学習指導要領は、子どもが「生きる力」を身に付け、変化が激しく予測困難な現代社会の中で自身の生きる道を切り開いていってほしいという願いを込めて改訂されました。重要視されているのは、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら判断して行動する力です。

新学習指導要領の基本的な理念とは、「資質・能力の3つの柱」「カリキュラム・マネジメント」など、新しい学習指導要領における重要な事項のすべての基盤となる考え方です。

 

文部科学省によると「資質・能力の3つの柱」とは次のように定義されています。

  • 学んだことを人生や社会にいかそうとする「学びに向かう力、人間性など」
  • 実際の社会や生活で生きて働く「知識及び技能」
  • 未知の状況にも対応できる「思考力・判断力、表現力など」

 

社会に開かれた教育課程の3つのポイント

ここでは、社会に開かれた教育課程の3つのポイントをご紹介します。

 

学校と社会が共通の目標を持つ

社会に開かれた教育課程の1つ目のポイントは、「学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を、学校と社会とが共有すること」です。

学校と社会が共通の目標を持つことにより、子どもたちは社会で起きていることに関心を持つようになります。そして、よりよい社会をつくるために自ら行動するようになることが期待できます。

 

これからの社会に必要な資質・能力を育成する

2つ目のポイントは、「これからの社会を創り出していく子どもたちに必要な資質・能力を育成すること」です。

子どもたちが社会と関わり合い、自分の人生を切り開いていくためには、思考力や判断力、行動力が必要です。また、周りと協力する力も欠かせないでしょう。

 

学校と地域が連携・協働する

社会に開かれた教育課程において、「学校と地域が連携・協働すること」も重要なポイントです。子どもたちが社会で生き抜く力を身に付けるためには、地域社会との協力が不可欠だからです。

この点を踏まえて、文部科学省は、地域が学校の運営に参画する「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)」を制定しました。これにより、保護者や地域の人の声を学校教育に取り入れ、地域参加型の学校づくりを進めることができます。

また「地域学校協働活動」も積極的に取り入れていきたい取り組みです。

地域学校協働活動では、目標達成のために、学校と地域、保護者、NPO法人、民間企業などが連携・協働します。この取り組みにより、子どもが地域に出かけて郷土学習を行ったり、地域の行事に参加したりできるようになります。

学校と地域が交流するようなカリキュラムを積極的に取り入れるだけでなく、放課後や土曜日に地域の人と交流するプログラムを実施できるでしょう。また、地元の地域資源をテーマとして授業で扱うこともできます。

 

社会に開かれた教育課程の必要性

社会に開かれた学校教育は、変化が激しく、予測困難な現代社会に対応できる人材を育成するために必要です。

社会に開かれた教育課程を通して、子どもたちは、人生や社会をよりよくするための考え方や能力を身に付けます。また、自分の力でよりよい未来を築けるという実感を持てるようにもなります。このような能力や実感は、どんな困難をも乗り越える助けとなるでしょう。

また、社会に開かれた教育課程で育つ自主性・自発性は、自ら考えて行動することが求められる現代社会を生きる上で役立ちます。

このように、社会に開かれた教育課程は、これからの時代をよりよく生きるために必要な学びといえます。

 

社会に開かれた教育課程がもたらす4つのメリット

社会に開かれた教育課程は、子ども・学校・地域社会それぞれにメリットがあります。ここでは、3方向にもたらされる4つのメリットをご紹介します。

 

子どもたちが社会を生き抜く力を身に付けられる

メリットの1つ目は、子どもたちが変化の激しい社会を生きるのに必要な力を獲得できることです。

現代社会を生き抜くためには、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら判断して行動する力が必要であることは言うまでもありません。子ども自ら地域と関わり、課題を解決するために考え行動することで、この生きる力を身に付けられるのです。

 

子どもたちの関心・意欲が高まる

2つ目のメリットは、実社会にテーマを求めることで、子どもたちの関心・意欲が高まることです。

関心・意欲が高まると、子どもは能動的に学びに向かうようになり、必然的にアクティブラーニングが促されます。

また、学校で学ぶことが自分の住む地域の課題や社会問題と結びつくことで、学びの目的意識を持てるようにもなるでしょう。さらには、自ら考え行動する力や、自分が社会の役に立っているという自己効力感の向上も期待できます。

 

学校教育の質が向上する

社会に開かれた教育課程は、学校教育の質を向上させる効果もあります。社会と連携することで、教育内容がより現実的になり、生きた知識や技術を身に付けられるようになるからです。

また、地域資源や伝統文化を学習のテーマに取り入れるなど、地域の特色を生かせるようになり、学校ごとにオンリーワンのカリキュラムが出来上がります。

さらに、地域社会との信頼関係も築けるため、地域からの関心や支援がさらに高まり、教育環境がより充実するというメリットもあります。

 

地域社会が活性化する

社会に開かれた教育課程には、地域社会が活性化するというメリットもあります。

地域の課題解決のために、子どもの柔軟な発想が役に立つかもしれません。実際に、地域資源を生かすための新たな取り組みとして、eラーニングを活用しているところもあります。

また、地域と関わる中で子どもたちの地元愛が芽生え、人口減少や高齢化を抑えることにもつながるでしょう。

このように、「社会に開かれた教育課程」の実践により、地域社会が活性化し、持続可能な地域づくりが可能になります。

 

「社会に開かれた教育課程」の実践例

最後に、社会に開かれた教育課程の実践例を2つご紹介します。

 

山口県大島郡周防大島町の事例

山口県大島郡周防大島町は県の最東端に位置し、瀬戸内海に浮かぶ屋代島とその周囲の島々から成る町です。202412月時点の人口は13,575人で、山口県内で人口減少が2番目に高い町でもあります。

そんな周防大町の課題は「人口減少をどう止めるか」「地域コミュニティをどのように維持していくのか」「文化の維持・継承をどのように行っていくのか」です。

町唯一の県立高校である周防大島高校では、「生徒のキャリア意識や地域への愛着をどう高めるのか」という課題も抱えています。この課題をクリアするため、コミュニティ・スクールを導入し、生徒の「故郷への誇りと未来を拓く力」を育成しています。

「島・学・人プロジェクト」では、英語を使って観光ガイドブックの翻訳をしたり、外国人向けの島内体験ツアーを企画・実施したりして地域に貢献しています。

地域創生科ビジネスコースでは、地域学校協働活動を取り入れ、令和5年度にオリジナル商品「龍神乃盬飴 The 瀬戸内のダイヤ」を開発しました。

また、普通科普通コースの授業では、特産品である大島みかんのPR動画や、周防大島オリジナルソングを作成するなど、地域課題の解決に向けた実践的な活動を行っています。

また、周防大島高校の伝統的な学校行事「ふれあいみかん収穫作業」は、県のみかん生産量の8割を占める周防大島ならではの取り組みです。

この取り組みを通して、「将来の担い手として、高校生が地域の産業を理解する」「勤労の尊さを実感し望ましい職業観を確立する」「農家の方とのふれあいを通して豊かな人間性を育む」ことなどを目指しています。

 

岩手県大槌町の取り組み事例

岩手県上閉伊郡に位置する大槌町は、東日本大震災で津波による甚大な被害を受けた地域です。そんな大槌町は、震災から立ち直り、ふるさとの将来を担う人材を学校教育で育成することを目指して、コミュニティ・スクールを導入しました。

町では、「地域への愛着を育む学び」「生き方・進路指導を充実させる力を育む学び」「防災教育を中心とした学び」の3つの柱を軸に、学校・保護者・地域が一体となった取り組みが行われています。

小中一貫校である大槌学園と吉里吉里学園では、9年間を通じて「ふるさと科」のカリキュラムを実施しています。「ふるさと科」では、復興・防災を基盤とした「生きる力」および「ふるさと創生」を推進し、町の特徴や産業を学び、復興発展を担う人材の育成に取り組んでいます。

「地域産業に関する学習」では、地元の商店経営者や漁師などの地域人材が講師となります。この支援を活用して、458年生は鮭の稚魚の飼育・放流・荒巻鮭作り、78年生はワカメの種付け・収獲・芯裂き・袋詰めを行っています。鮭もワカメも大槌町の基幹産業です。

また「キャリア教育」では、町内の約70の事業者が協力し「職場体験学習」が実施されています。ほかにも「防災教育」「ボランティア教育」「福祉教育」などに取り組んでいます。

 

まとめ

社会に開かれた教育課程は、学校と社会が一体となって取り組むべきであり、これからの社会に必要不可欠な教育です。社会に開かれた教育課程は、これからの日本を生きていくすべての方が知っておくべき考え方ともいえるでしょう。

この機会に、お住まいの地域や学校で、どんな取り組みがなされているのかチェックしてみてはいかがでしょうか。一人ひとりの関心が、よりよい社会をつくるための大きな力につながるはずです。


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