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ゲームを使った教育におけるAIの役割

2024年09月20日
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上松 恵理子 先生
東京大学 先端科学技術研究センター 上席研究員
株式会社イー・ラーニング研究所 顧問
早稲田大学 招聘研究員
国際大学GLOCOM客員研究員
議員連盟(超党派)有識者アドバイザー
総務省「プログラミング教育推進事業会議」委員

今回はゲームを使った教育がAIによってどのように変化を遂げていくかについて考えていきたいと思います。これまでゲームを教育に取り入れることはクリエイティブで豊かな学習体験として、学習意欲を高め集中して学ぶことができるようになるといったことがありました。また、ゲームを教育に取り入れる「ゲーミフィケーション」が以前から注目されていて、ゲームを使った授業は学習意欲の向上やスキル習得に効果があった事例もありました。

今回はその上でAIはどうゲームを教育に取り入れることに関わっていくのでしょうか。ゲームを使った学習に特化してみていきたいと思います。

 

 学習のパーソナライズ化

教育はすでに、先生から一斉授業だけで教わるスタイルから、ラーナーセンタード(learner-centered:学習者中心)のフェイズに来ています。その上で、今は1人1台の端末を使用していますので、そこにAIが使用されると、個々のスキルやニーズに沿った学習をパーソナライズすることが可能になります。

AIは学習スタイルや進捗状況に応じて、リアルタイムで学習者の得意な点や不得意な点、長所や短所なども分析し、即座にそれに沿ったフィードバックを提供し、より効果的な学習をすることができます。

また、AIは、ゲーム上の行動を解析し、即時に解析結果に基づいて、個々に適切なアドバイスや課題について提示することができるのです。

さらに、アダプティブ・ラーニング(adaptive learning:個別最適化学習)も容易にできるようになるため、指導者側が生徒の理解度や学習の進捗や成果を把握するのに役立ちます。

指導者はAIを使って生徒全員の学習データやそのゲームを使ったパフォーマンスを分析し、その傾向について把握することが可能となります。学習者がゲームを使って学んだデータを収集し分析することで、多くの生徒が間違えた部分についての学習方法の改善を検討することが可能となります。

一方で、AIとのチャットを通して、ゲーム内での質問や疑問にリアルタイムで学習者が困ったときに即座にチャットなどでサポートしたりすることが可能となります。

これらのことからわかるように、AIによる対話型のサポートは最近では電話応対にも使われていますが、どんどんと精度も向上してきているため、学習者の疑問や問題解決を助けるだけでなく、ゲームを通じて学ぶ内容の理解やその傾向のデータを取集しそれを教育に生かすために有効な手段となります。

 

エンゲージメントが高まる

AIは、仮想環境の構築により最適なシミュレーションを行うことが可能です。ゲームを使った学習にAIを活用することで、シミュレーションをリアルタイムで生成し、学習者が仮想の世界でさまざまなシチュエーションを体験できることが可能になります。

例えば、ゲームの中で地球温暖化の進んだ未来都市をシミュレーションし、課題を実際のことのように解決する学習者能力を育むことができます。

このような生徒の興味や関心に基づいたコンテンツ内容のゲームをAIが提供することにより、学習のエンゲージメントを高めることも可能となるでしょう。学習者の行動を分析し、その興味や学習スタイルに合わせたカスタマイズされたコンテンツをAIによって挑戦する機会を得ることで学習の体験機会が広がるでしょう。

 

苦手分野への挑戦

ゲームの持つ楽しさを生かして苦手な分野に特化した追加の練習問題やチャレンジをAIは提供することも可能です。ゲームを使った教育とAIは、その組み合わせで、学習体験がよりパーソナライズ化され学習が効率化されます。例えば、これまで宿題で漢字ドリルをページ指定でやってくるようなものには、もう覚えている漢字も含まれ、それを繰り返し書くことの意義を疑問視する声もありました。しかしAIの高度な分析機能や個々に応じたフィードバックが学習者にとって効果的な学びの環境を提供することは教育の質が向上し、学習者がより楽しく多くの事を学ぶことができるようになるのです。

 

 

これからの教育の動向

 日本の文部科学省もAIを使った学習のガイドラインや生成AIのパイロット校を公開しています。また、教員の公務が多く多忙な状況についてAIを使って解決したり、事務的な仕事を減らしたりすることにも自治体や補助金を出しています。さらにはAIを研究する研究者にも支援事業をスタートさせました。

このように日本もようやく動いてきましたが、世界はどんどん進み始めています。特にリアルタイムでカリキュラムを変更することが行われているアメリカでは既に幼稚園から小学校までが実際にインターネットを通じて利用するオンラインプログラムを使い、AIがリアルタイムでカリキュラムを調整し、各生徒別に最適な課題や問題を提供したり、学習の強化が必要な部分にフォーカスしたりしており、これにより個別最適化の学習者の理解度や進度に応じた学習の理解のスピードは向上することとなりました。

良い学びとは、これまでの教育内容を単にアップデートするだけでなく、スピード感を持つことがゲームを使った教育においてもAI時代は必須となってくるでしょう。

 

文部科学省のウエブサイト

            https://www.mext.go.jp/a_menu/other/mext_02412.html