検索する

キャリア教育とは?メリットと校種別に重視すべきポイントを解説

2024年09月21日
キャリア教育とは?メリットと校種別に重視すべきポイントを解説のサムネイル画像
三澤結
大学卒業後、千葉県内の公立高校で英語教員を8年間務める。
子供たちに実践的な英語力を身に付けてもらうために、授業に英語劇やグループワークなどのアクティブラーニングを積極的に取り入れた経験を持つ。
現在はフリーランスのSEOライターとして、これまでの経験を活かして教育や英語学習、留学などのジャンルの記事を執筆している。
中学校教諭一種免許状(英語)・高等学校教諭一種免許状(英語)・IELTS Overall 7.0・TOEIC820点・実用英語技能検定準1級を保有している。

近年、下記のような大規模な変化によって、子どもたちは「理想とする大人のモデル」が見つけづらく、将来の夢や希望を描くのが難しくなってきています。

 

  •           社会経済・産業的環境の国際化
  •           産業や経済の構造的変化
  •           雇用の多様化・流動化

 

このような背景から、子ども一人ひとりのキャリア発達をサポートし、それぞれに相応しいキャリアを形成するために必要な能力や態度を育てる教育である「キャリア教育」の重要性が叫ばれるようになってきました。

この記事では、キャリア教育の定義、キャリア教育のメリット、そして校種別のキャリア教育で重視すべきポイントについて詳しく解説します。

 

 キャリア教育とは?

平成23131日に実施された中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」によると、キャリア教育は下記のように定義されています。

一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育

引用:中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)

言い換えると、キャリア教育とは、子どもや若者がキャリアを形成していく上で必要な能力や態度の育成を目標とする教育的な働きかけのことです。

 

 キャリア教育と職業教育の違い

職業教育とは、一定あるいは特定の職業に従事するために必要な知識・技能・能力・態度を育成する教育のことで、具体の職業に関する教育を通して行われることが特徴です。

それに対してキャリア教育とは、普通教育・専門教育関係なくさまざまな教育活動を通じて実施されるもので、職業教育もキャリア教育に含まれます。

 

キャリア教育と進路指導の違い

キャリア教育と進路指導は、「子どもが将来を見据えて生き方を選択する能力や態度を育てることを目的とした教育活動」である点では同じですが、下記のように実施の範囲や対象が異なります。

 

 

実施の範囲・対象

キャリア教育

就学前段階から大学まで、学校や社会のさまざまな機関で実施される

進路指導

中学校や高等学校に限定された教育活動である

 

キャリア教育のメリット

キャリア教育を実践するメリットは、下記の4つです。

 

-          「働くこと」のイメージが具体化される

-          鮮明なイメージをもとに自分のキャリアについて考えられる

-          学習意欲が向上する

-          社会で必要な力が身に付く

 

本章では、それぞれのメリットについて詳しく解説します。

これらのメリットを知ることで、キャリア教育の意義をより深く理解できるようになるでしょう。

 

「働くこと」のイメージが具体化される

民間企業で活躍する人の講演などを通じて、子どもたちは「働く」ことに対してより具体的なイメージを持つことができるとともに、「なぜ自分が働くのか」という職業観や価値観についても明確にすることができます。

辰巳啓子氏の「働くイメージが上手く持てない理由-大学のキャリアカウンセラーの視点から-によると、「働くことについて上手くイメージが持てない」学生には下記のような特徴が見られるそうです。

 

「働くことについて上手くイメージが持てない」学生の特徴

・大企業・正社員・上場企業などの昔の基準で進路先を要望する

・働くことに対してネガティブなイメージを持つ

・自身のアルバイトや両親の仕事など限られた「仕事」や「職業」のイメージしかない、あるいはインターネット上の誤ったイメージや情報を持っている

・学校や勉強する意義や目的が見出せず、あいまいである

・成長に目が向かない

・主体的な意思決定ができず、親の決めた進路に従って後悔する

・なんとかなると思っている。分からなくて不安なのに調べない

・自己評価が極端に低い

 

これは大学生を対象にした研究結果ではありますが、このような働くイメージが持てない大学生にしないためにも、子どもたちが「働くこと」に対して具体的なイメージを持てるように早期からキャリア教育を実践することが大切です。

 

 鮮明なイメージをもとに自分のキャリアについて考えられる

キャリア教育を通じて、子どもたちは鮮明なイメージをもとに自分のキャリアについて考えられるようになります。

例えば、自己分析を通じて、自分の特性や能力、傾向などについて新しい発見をし、自己理解を深められるといった具合です。

大学進学率は年々上昇しており、将来や職業について考えることが先延ばしされる傾向にあります。しかし、早期からキャリア教育を実践することで、自分が目指すキャリアを実現するためにはどの高校・大学で何を学べばよいのか考えることにつながります。

 

出典:文部科学省「大学入学者数の推移

 

結果として、進学する高校や大学のミスマッチが防げるようになるでしょう。

そのため、キャリア教育を通じて早い発達段階から「自分はどう生きたいのか」「社会にどう貢献できるのか」について考える機会を設けることはとても大切なことです。

 

学習意欲が向上する

キャリア教育を通じて子どもたちは自分の将来について考え、目標設定ができるようになります。

場合によっては、「私もこんな大人になりたい」とロールモデルが設定されることもあるでしょう。

目標ができると、実現するためには何をすべきか考え行動に移すようになります。

今勉強していることが将来に役立つと分かれば、子どもたちの学習意欲は向上するでしょう。

キャリア教育の実践と学習意欲の相関関係については、下記の結果からも明らかです。

出典:文部科学省 国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター「キャリア教育が促す『学習意欲』

 

 社会で必要な力が身に付く

キャリア教育を通じて、下記のように社会で必要な力が身に付けられます。

 

キャリア教育を通じて身に付く能力

詳細

人間関係形成・社会形成能力

・他者の個性を理解する力

・他者に働きかける力

・コミュニケーション・スキル

・チームワーク

・リーダーシップ

自己理解・自己管理能力

・自己の役割の理解

・前向きに考える力

・自己の動機付け

・忍耐力

・ストレスマネジメント

・主体的行動

課題対応能力

・情報の理解・選択・処理

・本質の理解

・原因の追究

・課題発見

・計画立案

・実行力

・評価・改善

キャリアプランニング能力

・学ぶことや働くことの意義や役割の理解

・多様性の理解

・将来設計・選択・行動・改善

参考:文部科学省「キャリア発達の必要性と意義その2

 

昔は、企業が研修を通じて新入社員や若手社員を育成していましたが、労働時間の長期化により、最近は企業の研修時間が減少傾向にあります。

出典:厚生労働省「人材育成の現状と課題

そのため、子どもたちは社会に出るまでに必要な能力を身に付けることが必要で、キャリア教育はそれらの能力の習得に最適です。

 

【校種別】キャリア教育で重視すべきポイント

キャリア教育は早い発達段階からスタートさせることが重要であることを説明しましたが、発達段階によってやるべきことや重視すべきポイントが異なるため注意が必要です。

ここでは、下記の3つの校種別にキャリア教育で重視すべきポイントについて解説します。

 

  •          小学校
  •           中学校
  •           高校

 

小学校

小学校は、周囲や社会のために働く意義を理解し、自分の特性に気付いて長所を伸ばすことに力を入れる時期です。

そのため小学校でキャリア教育を実践する場合は、校内の当番活動や校外の職場見学などを通じて、「働く」ことの意義や自分にできること、あるいは自分がやりたいことについて理解を促すよう意識する必要があります。

子どもたちのキャリアに対する意識を高める上で、下記の教育活動は特に効果的です。

 

-          職場見学や職場体験など体験活動の実施

-          キャリアパスポートの作成

-          キャリアカウンセリングの実施

 

キャリアパスポートとは?

キャリア教育に関わる活動について、これまでの学びのプロセスを文章化し振り返りができるようにする、ポートフォリオのような教材のことです。

>> 「キャリアパスポート」についてさらに詳しく知りたい方はこちらへ

 

 中学校

中学生になると自我が芽生え、社会の一員としての役割に気付き始める時期です。

また、高校入試などを通じて自分の責任で進路を決定することが求められる時期でもあります。

中学校では、「総合的な学習の時間」だけでなく学校の教育活動全体でキャリア教育を実践し、子どもたちに自分の役割や生き方について考えさせる機会を与えることが大切です。

特に「職場体験活動」の重要性は高く、実際に「働く」経験をすることで社会の現実を知ることができます。

実際多くの中学生が、「職場体験活動は将来の職業選択を考える上で役に立った」と感じています。

下記を参考にしながら働く体験をするだけでなく、事前に体験先の仕事内容について学習したり、事後に体験内容を発表させたりして体験活動を最大限に活用しましょう。

出典:厚生労働省「中学校でのキャリア教育の実践(職場体験前と体験後)

 

高校

高校は、義務教育で培った能力をさらに伸ばして、学校から社会に移る準備として専門性の基礎を育成する段階です。

そのため、下記のように社会や職業に対する「現実的」な理解を深めた上で、どのように社会に参画するかを考えさせるキャリア教育を実践することが求められます。

 

-          卒業生や企業で働く社会人・職業人との対話

-          中学校より期間が長めの職場体験学習・インターンシップ

-          「将来の自分」をテーマにしたポスターセッション

-          高大連携プログラム

 

>> 全国の高校におけるキャリア教育の実践例についてさらに詳しく知りたい方はこちらへ

 

まとめ

キャリア教育とは、子どもや若者がキャリアを形成していく上で必要な能力や態度の育成を目標とする、教育的な働きかけをすることです。

 

キャリア教育を実践することで、下記のようにさまざまなメリットがあります。

 

-          「働くこと」のイメージが具体化される

-          鮮明なイメージをもとに自分のキャリアについて考えられる

-          学習意欲が向上する

-          社会で必要な力が身に付く

 

しかし、子どもの発達段階によってやるべきことや重視すべきことが異なるため注意しましょう。