ゲームと教育 第2回

寄稿者様ご紹介

上松恵理子 先生

東京大学 先端科学技術研究センター 上席研究員
株式会社イー・ラーニング研究所 顧問

早稲田大学 招聘研究員
国際大学GLOCAM客員研究員

議員連盟(超党派)有識者アドバイザー
総務省「プログラミング教育推進事業会議」委員

はじめに

小学校から教科として「情報」の授業を行っているという海外の先進的な国も少なくない中、日本ではようやく高校で2022年度から教科「情報Ⅰ」が必修となりました。また、それに伴い、2025年度の大学入試共通テストでは6教科8科目の中に「情報」が加えられます。いずれ入試システムがCBT([1] Computer Based Testing)に変わることを考えると、メディア端末の操作に慣れておくことも重要なスキルの一つになってきます。

もちろん鉛筆を使って紙に記入する方法はまだ続きますが、近い将来にはCBTで入試や定期試験が行われるようになるでしょうし、その際には受験者の端末操作の慣れの違いには注意が必要です。このような中、端末を使って解答入力する操作に慣れているケースと慣れていないケースで点数に違いが出てくることを懸念する研究者もいます。

このような教育事情がある中で、モバイル端末の操作性や操作の習熟度が教育に与える影響についての議論が遅れているように感じています。ゲームでは個人の進行度に応じて局面が変わっていくレイヤーに応じて行いますが、これがようやく教育に入ってきたともいえるのではないでしょうか。

CBTを使えば、解答した瞬間にそのデータはクラス、学年、学校、自治体、国レベルで順位が出て正解が直ぐ見ることができ、先生の採点が楽になるというメリットがあります。しかしCBTにはもっと優れた面があります。早く正確に解答した児童と、誤答した児童で表示される問題が異なってくるというアダプティブテストが可能となり、個別最適化された問題がその児童に合った難易度で展開されるのです。これはCBTの問題でしかできない問題構成で、どの集団がどういったところでつまずくのかや、どういった学習者がどういう傾向があるのか等のデータを取ることができます。

海外の教育事例

フレキシブルなアダプティブテストは1人1台の個別最適化教育に深く関わってきます。海外の小学校の数学のテストではすでに数年前からPBT([2]Paper Based Testing)からCBTへ移行している学校も少なくない状況だときいていたため、いくつかの小学校を訪問して、普段の授業や試験でタブレット端末を活用している事例を視察してきました。

オーストラリアでは一般的にBYOD([3] Bring Your Own Device  )の方式を採用しているため、子どもたちが自分のパソコンを学校に持参しています。

デンマークではアダプティブを小学校でやった事例について色々と伺いました。結果だけでなく途中でどう児童がつまずいたか、個人や集団の傾向はどうなっているのか、などのプロセスの評価をしていました。つまずいた人には次ぎの問題は優しくなるなど端末画面上で行われるテストは1人1台の端末を使う時代の教育にとても相性のいいものだと言えるのではないでしょうか。そのような中、最初に述べましたが、日本ではようやく高校ではありますが入試にも教科「情報」が入ってきて、日本の教育が大きく舵を切ることが目前となりました。 文部科学省は教科「情報」導入に際しての特設サイト[4]をweb上で作成し、高等学校情報科の最新の情報の発信を始めています。そして間もなく大学には教科「情報Ⅰ」を履修した高校生が入学してくる時代になり、大学側にも新たな対応が求められて来るでしょう。

高校では「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」の科目の特徴の違いを理解し、どの大学でどういった入試科目となるのか等の入試動向と大学入試試験問題対策など、色々と動向をリサーチする必要があります。

いずれにしろ情報科目は、現代社会で必要不可欠なので生徒自身のためにもなります。

おわりに

日本ではPISA[5]の順位が下がった時期がありましたが、その原因の一つとして、パソコンの操作に慣れていなかったせいではないか、という声がありました。日本でも試験や入試にはテストはCBTという流れが将来間違いなく来るため備えが必要となってくることでしょう。実は日本の就職試験などでも採用されているアダプティブテストは既に統計学的モデルを通して数値化し,それらを教育のエビデンスとして導入されている事例もあります。

よく「ゲーム感覚で」という言葉通り、瞬間的な判断と操作で次々と問いを解かねばならないテストに対応を余儀なくされるということを意識し、その流れを教育に取り入れることも重要となってくることでしょう。

日本の高校に導入される教科「情報」は内容が充実し、これからの時代に欠かせないリテラシーが盛り込まれています。教育も時代に合った内容や方法にどんどん更新されていかねばなりませんし、そのスピードはこれまでよりも加速していくことでしょう。いずれにしろ、今、教育が変革の時を迎えています。

[1] CBTとはComputer Based Testingの略称で、コンピュータを使った試験方式のこと。
[2] PBTとは「Paper Based Testing」の略称であり、紙媒体をベースとした試験方法。
[3] 学校においてのBYOD(Bring Your Own Device)とは、児童生徒が所有しているパソコンやスマートフォンを学校に持参しそれを学習端末として使うこと。
[4] 文部科学省特設サイトhttps://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1416746.htm?fbclid=IwAR2zHkcntSsx7jHnN6F8jH9u-NKs1aKkprR0Ry9xYg4632jAHsiLydU95sc