ポータルサイトの未来

寄稿者様ご紹介

前刀 禎明 氏

株式会社リアルディア 代表取締役社長
エデュケーション・ストラテジー・アドバイザー

ソニー、ベイン・アンド・カンパニー、AOL、
ウォルト・ディズニー・ジャパン等を経て
2004年にアップル米国本社兼日本法人の代表取締役も兼務。
2006年に両役職とも退任後、株式会社リアルディア創業。

玄関や入口を意味するのが「ポータル」という言葉。さまざまなコンテンツにアクセスするため最初に訪れるのが「ポータルサイト」ですね。したがって、ポータルサイトが魅力的であるかどうかが極めて大切なのはいうまでもありません。今回はマーケティングとテクノロジーの面から考えてみましょう。

まずはマーケティングから。重要な考え方の1つとして「カスタマー・エクイティ」があります。顧客生涯価値と訳され、顧客が企業にもたらす利益の合計のことです。つまりカスタマー・エクイティが高いということは、顧客がその企業に大きな魅力を感じて、ずっと顧客でいたいと思っている証拠。企業競争力を高めるためには、高いカスタマー・エクイティが必要なんです。

顧客が情報を得るためのポータルサイトが、重要な役割を果たすことは言うまでもありません。どんなことが求められるのかを考えるために、もう少しカスタマー・エクイティについて知りましょう。カスタマー・エクイティは3つのエクイティから構成されます。「ブランド・エクイティ」、「バリュー・エクイティ」、そして「リテンション・エクイティ」です。

この3つを「やっぱり」、「なるほど」、「ずっと」と置き換えるとわかりやすくなります。かつて、アップルで「iPod mini」を仕掛けたときを例に説明しましょう。当時、日本でのアップルは危機的でした。iPodは売れておらず、Macの人気もなくなっていました。そんな状況で考えたのは、iPod miniで一点集中突破してアップルを復活させること。

カラフルでお洒落にコーディネートできるから「やっぱりiPod」。簡単で楽しいから「なるほどiPod」と納得できる。だから「ずっとiPod」を使い続けようと思う。そんな状況をつくるために独自のマーケティングアプローチを実施しました。モデルも登場したプレスイベント、5色のiPod miniと洋服のカラーコーディネートを紹介したファッションサイト、それを実際に展示したバーニーズ ニューヨークのウィンドウディスプレイなど。

これらすべての効果的な連動によりiPod miniは大ヒットして、アップルを復活させることができました。こうしてカスタマー・エクイティを高めることに成功して、圧倒的なブランドを構築したんです。日本におけるiPhoneのシェアが世界的にも高いシェアを誇っているのはご存知の通りです。

魅力的なポータルサイトを構築するためには、カスタマー・エクイティを高める総合的なマーケティングが不可欠だということをよく理解していただけたかと思います。前例にとらわれない柔軟な発想が求められます。

次はテクノロジーについて考えてみましょう。こちらもマーケティング同様、いやそれ以上に革新的なアプローチが必要になります。そして加速的なスピードに取り残されないようにしなければなりません。それは言うまでもなく、ChatGPTなどAIが劇的に進化しているからです。

ポータルサイトの概念を抜本的に考え直すべきでしょう。情報が整理されているとか検索しやすいとか従来の要件を満たしているだけでは、魅力的なポータルサイトであり続けることは困難になります。対話型AIの機能も備えながら、ユーザーの学習にも役立つ高付加価値なサイトを構築しなければなりません。

情報を得るだけではなく学べるサイトですね。受け身になることなく自発的に学び成長し続けることができる。そのためにAIその他のテクノロジーを活用できるようにする。テクノロジーの変化に必死についていくのではなく時代をリードする。未来予測より未来創造できる企業を目指しましょう。

実現するのは、ユーザーが自分を解放する、そして自分を創る、さらに自分を超えることができるようなコンテンツやサービス。ワクワクしながら学び続ける「ワンダーラーニング」を提唱していますが、まさにそのためのコンセプトです。

創造的知性を高めるのはもちろんのこと、AIとの対話力も磨くことができます。AIは正解を求めるためではなく、探求し創造するためのパートナーとして位置づける。曖昧ではなく、より具体的に考える。論理的な関連性に加え、創造的な関連性を見出す。AIの進化に負けないように人が進化するために必要なことですね。

想像を超えるスピードで不可能だったことがどんどん可能になる大きな変化。これを傍観しているだけではなく、積極的に新しいテクノロジーを取り込んで試してみる。ロールモデルなど過去の成功例を模倣するより前例のないことにチャレンジしましょう。

ポータルサイトの構築も試行錯誤でいいんです。要件を定義することに時間をかけるのではなく、試して進化させ続けるんです。完成形なんてないんですよ。ウォルト・ディズニーが、ディズニーランドは永遠に完成しないと言ったのと同じ考え方です。

妥協せず追求して、常に最高だと納得できるものを世に送り出す。AIの進化は止まりません。我々も自分を信じて挑戦することで可能性を広げることができます。ラーニングインテリジェンスを磨き、マーケティングもテクノロジーも活用する。素晴らしいポータルサイトを構築して、豊かな未来を創る一歩を踏み出しましょう。