ゲームと教育

ゲームと教育
寄稿者様ご紹介

上松恵理子 先生

東京大学 先端科学技術研究センター 上席研究員
株式会社イー・ラーニング研究所 顧問

早稲田大学 招聘研究員
国際大学GLOCAM客員研究員

議員連盟(超党派)有識者アドバイザー
総務省「プログラミング教育推進事業会議」委員

はじめに

モバイル端末を使ってオンライン上でのやりとりが盛んになってきているゲームですが、これが教育系の論文に掲載されたのは15年ほど前の事でした。当時、日本でも盛んだったWiiを使ってアメリカの高校で体育の授業をしたところ、生徒たちは運動に対するモチベーションも高くなり、健康に良い影響があったというものでした。

授業の中でゲームを使って楽しく運動ができたことで、ゲームが有効な手段となり得る可能性があったということでした。その後、ゲームと教育は相性が良い事例がいくつか出てきています。

ゲームは教育に役立つ

ゲーミフィケーションという言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、これはコンピュータゲームのゲームデザイン要素やゲームの原則をゲーム以外の物事に応用し学習等を行うことも含みます。

ゲームが教育に与える影響については色々なことが言われています。まずは、認知能力の向上です。例えば、ゲームをすることで問題解決能力や空間認識能力を向上させることができるということや、相手と協力して目標を達成する必要があるためチームワークやコミュニケーションスキルを向上させることができるという話もあります。

特にオンラインゲームは、プレイヤーが協力したり競い合ったりすることがあるため、プレイヤーが意思決定を行うことで、即断力のスキルや問題解決能力を向上させることもできるということもあります。 近年では成績のアップに繋がる事例も論文に見られます。日本の小学1年生にゲーミフィケーションの教材を実践した結果、2週間で30%以上のテストの点数が向上したというもので、具体的には、実践前後に行ったテストとアンケートの結果、ケーミフィケーション教材は児童のモチベーベションを高め、算数の能力、特に計算分野の能力を高める効果[1]だったというものでした。ゲームは達成する毎に新しいフェイズに行くことで達成感が高まり学習意欲に繋がるという学習との相性の良さがわかる事例です。

ゲームと教育の融合のメリット

これからのインターネット社会では現実と仮想空間がシームレスになると言われています。デジタルツインという言葉も聞かれるようになり、仮想空間上での世界でも役立つスキルが必要となって来る時代の到来です。仮想空間では、体が不自由でもスポーツを楽しむことができるというように、ネット上でコミュニケーション能力や問題解決能力など身が付くことができるようになるのです。さらに、自分自身のキャラクターや世界を作成することで創造性や想像力を刺激する機会を得ることができるようになります。

ネット上での多様なゲームによって様々なスキルを養うことができることから、教育現場ではゲームが有効な教材として注目されています。中学校の授業ではブラインドタッチをスピードアップするゲームや数学のスキルを向上させるためのゲームなどを使うというケースも少なくない現状です。

ゲームの中で繰り返し練習することで、言語や数学などの基礎的なスキルを定着させることができるという事例もあるため教育現場でも有効な教材として注目されています。ゲームは自分のペースで進めることができるため、その都度レイアーが上がる度にモチベーションが上がり、自己学習を行うようになります。よく、もう知っている漢字をドリルなどで何回も学習させるような無駄な時間を使うことはありません。また、自己評価ができるため、自分自身の理解思考を把握することができます。 よく宿題が出ないと家で勉強しない、という声を聞きますが、それは自分のレベルに合った学習でなかったり、答えが1つの問題を指示待ちで解いてきたりした弊害だと思います。

おわりに

ゲームをする事で学ぶことのできるコンテンツの必要性は高まってきています。デジタルツイン時代にリアルだけでなく仮想の世界のコミュニケーションなどが必須となるからです。

そのためにはまず、ゲームリテラシーをつけ、楽しくやりつつ、それが学びに繋がりモチベーションを向上させることができるということがまさに理想の学習スタイルとなるでしょう。 しかしどんなゲームでも良いということではありません。学習意欲が高まる仕掛けのあるゲームでなければなりません。時代は学び続けることが必要な時代だからです。これから予測不能な社会を迎える時代に、ゲームで仮想体験しながらそれを乗り越える術を体験することも大事です。そのような自然な学びができることが今の時代には必要なことだと思います。

[1]引用:https://www.jstage.jst.go.jp/article/digraj/9/2/9_31/_pdf/-char/ja  デジタルゲーム研究『ゲーミフィケーションの要素を取り入れた小学校1年生向け電子教材の実践と評価』デジタルゲーム学研究 J-STAGEトップ/デジタルゲーム学研究/9 巻 (2016-2017) 2 号